太鼓(くる)を叩く

藤沢周平の時代小説『神谷玄次郎捕物控』に

「お前は太鼓(くる)を叩きすぎたようだな。それでかえって自分が怪しまれてしまったのは皮肉な話だ」

と言う台詞せりふがある。

この中の「太鼓(くる)を叩く」の意味が解らず、図書館で調べた。

【結論】

「他人のいうことに調子を合わせすぎたようだな」の意味。

慣用句「太鼓(たいこ)を叩く」の意味である。

では、なぜ、玄次郎は、太鼓を「たいこ」と言わず、わざわざ「くる」と言ったのか。

これが疑問である。

調べた結果、話の中に『うんすんかるた』なるものが登場する。

江戸時代に渡来した西洋カルタを日本風にアレンジしたものだ。

この「うんすんかるた」の中の太鼓を模した札を「クル」と呼ぶ。

これに引っ掛けて洒落しゃれたのだ。

なるほどね~

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【語彙説明】

太鼓を叩く/太鼓を打つ/太鼓を持つ

〔読み〕たいこをたたく/たいこをうつ/たいこをもつ

〔意味〕他人のいうことに調子を合わせる。相手の取り持ちをしてきげんをとる。迎合する。また、座興をとりもつ。

くる/ぐる

〔意味〕ウンスンカルタ七十五枚の中、三つ巴を描いた札。太鼓の模様を表して九枚一組となる。

日本国語大辞典 第二版 第四巻 小学館

 

うんすんかるた

上述の辞典の説明では、九枚一組と説明しているが、九枚は数札のことで、

残り六枚の絵札にも「三つ巴紋の太鼓」は描かれている。

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【出典】

藤沢周平『神谷玄次郎捕物控』(かみやげんじろうとりものひかえ)

「霧の果て」の中の「春の闇」の最後の台詞

うんすんかるた(宇牟須牟賀留多)

うんすんかるた(宇牟須牟賀留多)

江戸初期、南蛮船で日本に渡来した西洋カルタに日本風の工夫を加えたもの。

「うんすん」の名称の由来は、元来ポルトガル語「um sum」で、最高最上の意という説と、
日本で加えた絵札の「スン(唐人)」「ウン(福の神)」から採ったという説がある。

渡来当初は「天正てんしょうかるた」と呼び、札数は48枚だった。

その後、明和めいわ(1764~1772年)の頃、大人数で遊べる様に、と、札を75枚に増やし日本風にして、「うんすんかるた」と呼んで、幕府の公認するところとなった。

「天正かるた」の48枚に、1スート(種類)と各3ランクを加えて、札の枚数を75枚にした。

【スート(種類)】

1.パオ・ハウまたは花(棍棒)
2.イスまたは剣(刀剣)
3.コツまたはコップ(聖杯)
4.オウル・オウロまたはオリ(金貨)
5.クルまたはグル(三つ巴紋の太鼓)<追加>

の5つとなった。

【ランク】

各スートに数札の1~9ランクまでは同じ、絵札が

10枚目は騎士(ウマ)、
11枚目は武者(キリ)<絵柄を変更>
12枚目は女従者(ソウタ)<絵柄を変更>
13枚目は唐人(スン)<追加>
14枚目は福の神(ウン)<追加>
15枚目は竜(ロバイ)<追加>

と、6ランクに増え、計15ランクとなった。

 

註:なお、「天正かるた」では、各スートとも1ランクには竜(ドラゴン)が描かれていたが、「うんすんかるた」になって、竜(ドラゴン)が独立し、1ランクは数字のみとなった。

 

うんすんかるた全75枚

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安永あんえい(1772~1781年)の頃、流行したが、賭博とばくに用いられたため、度々たびたび禁止された。

昭和の初め頃では、消滅寸前だったが、唯一熊本県人吉市ひとよししに伝統的な遊戯として継承されていた。
昭和40年(1965年)に遊戯法が熊本県から重要無形民俗文化財に指定された。
人吉市では「備前かるた」とも呼び、今でも大会が開催されている。

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《天正かるたの説明》

貞享じょうきょう3年(1686年)刊の『雍州府志ようしゅうふし』(黒川道祐)には、オランダ人がもてあそんだものを真似て遊び道具にしたとある。

これを「天正てんしょうかるた」と呼び、札数は4スート(種類)各12ランクで合計48枚。(4×12=48枚)

【スート(種類)】

1.パオ・ハウまたは花(棍棒)
2.イスまたは剣(刀剣)
3.コツまたはコップ(聖杯)
4.オウル・オウロまたはオリ(金貨)

の4つ。

【ランク】

各スートに数札1~9ランクまであり、それぞれの紋形が記されている。

10枚目は騎士(ウマ)、
11枚目は国王(キリ)、
12枚目は女王(ソウタ)

が描かれている絵札3ランク、計12ランクからなる。

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【補足】

天正てんしょうかるた」をトランプと比較する。

「スート」は、トランプで言えば、ハート、スペード、ダイヤ、クローバーに相当する。

「ランク」は、トランプで言えば、数札が1~10。

絵札が、ジャック(従者、家来)、クイーン(女王)、キング(王様)に相当する。

「天正かるた」は札が48枚、トランプは(52枚にジョーカー2枚を加えて)54枚。

独擅場(どくせんじょう)

独擅場

【読み】どくせんじょう

【間違いから慣用化】

「どくだんじょう」と読む間違いが、慣用読みとなり、「独場」と書くように、慣用化した。

〔補足〕「擅」を「壇」と誤り、「ひとり舞台」の意から「独壇場 (どくだんじょう) 」となった。

【意味】その人だけが思うままに振る舞うことができる場所・場面。ひとり舞台。

【例文】

「それが終ると、いよいよ、庄屋、長百姓、町方等に、『よくもの言ふ者』をつれて出頭するようふれを出すのである。ここからがいよいよ恩田木工の独擅場なので、全文を引用してみよう。」<ベンダサン『日本人とユダヤ人』>

「おい、こんな安酒で、ごまかそうたって、当てが違うぜ」 下村孫九郎は、膝を崩して、せせら笑った。これからが彼の独擅場であった。」<松本清張『かげろう絵図(上)』>

 

〇「独壇場」の意味説明

集団の中で一人だけ群を抜いて活躍しているさま、その人だけが思うままに振る舞い他の追随を許さないさま、を意味する表現。いわゆる一人舞台の状態。

原則的に、「独壇場」と表現できるのは「活躍しているのが唯一人」の状況に限られる。
つまり、抜群に活躍している人が何人かいて、しのぎを削りつつ他を圧倒している、というような状況を「彼らの独壇場」とは言わない。

諸刃の剣(もろはのつるぎ)

諸刃の剣

【読み】もろは の つるぎ

非常に読み間違いの多い言葉。

今回の場合、「剣」を「やいば」「けん」と読みません。

従って、「もろはのやいば」「もろはのけん」とは、誤った読み方となります。

【意味】相手にも打撃を与えるが、こちらもそれと同じくらいの打撃を受けるおそれがあることのたとえ。
また、大きな効果や良い結果をもたらす可能性をもつ反面、多大な危険性をも併せもつことのたとえ。

【類義語】

両刃の剣(読み)りょうば の つるぎ

これを「もろは」と読むのも間違い。

【他の「つるぎ」と読む例】

「剣の舞」(つるぎのまい)・・・旧ソ連の作曲家・アラム・ハチャトゥリアンが作曲したバレエ楽曲。
「草薙の剣」(くさなぎのつるぎ)・・・三種の神器のひとつ・天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)の別称。

御多分に漏れず/御多分に洩れず

御多分に漏れず/御多分に洩れず

【読み】ごたぶん に もれず

「御多聞」と書く間違いが非常に多い。

【意味】世間と同じように。例外ではなく。

【例文】

「御多分に洩れずうちの会社も人手が足りない」

「何れ折の内の帰りは、小川か此店(ここ)がお定まりの建場だが、鳥渡(ちょっと)一口気をつけの後は、

内店の拾匁とするとも何様(どう)とも、何(いづ)れ御多分に洩れやすめへ」<人情本・春色梅美婦禰 五>