『下谷叢話』に「江湖載酒甘薄倖」の一文がある。

解説者の読み下し文では、「江湖こうこ酒ヲセテ薄倖はっこうあまンジ」としている。

「江湖」とはチャイナの揚子江ようすこう洞庭湖どうていこだろうと想像する。

しかし、『下谷叢話』の背景は、日本の関東周辺だ。

関西なら琵琶湖と淀川に模したものか、とも思うのだが、疑問である。

さて、この一文は、どう理解したら善いのか?

 

これは、杜牧とぼく七言絶句しちごんぜっく遣懐いかい」(おもいをる)の一句が元にある。

【原文】落魄江南載酒行

【読み下し文】江南こうなん落魄らくたくし 酒をせて行く

【現代口語文】水辺のさと江南で、自由奔放ほんぽうに遊んだ若き日々、どこに行くにも酒びたりであった。

【語彙説明】

〇落魄・・・「ラクタク」と読み、自由気まま、放縦不羈ほうしょうふきを表わす。通常の「ラクハク――落ちぶれて漂泊ひょうはくする」意味ではない。
『才調集』は「落托」、晩唐の孟棨『本事詩』高逸篇は「落拓」としている。

〇江・・・揚州・宣州・洪州などの地を指す。
晩唐の高彦休『唐闕史』(『太平広記』所引)・『本事詩』・『唐音統籤』などは、「江」としている。

【参照】『杜牧詩選』 岩波文庫 2004年12月15日第2刷

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「江湖載酒甘薄倖」

解説者の読み下し文「江湖こうこ酒ヲセテ薄倖はっこうあまンジ」。

【出典】『下谷叢話』 永井荷風・著 岩波文庫 2000年9月14日発行 135頁 1行目と13行目