【読み下し文】

きみ一夕いっせきはなしは、十年じゅうねんしょむにまさる。

【原文】

與君一夕話。勝讀十年書。

【説明】

君のやうな博學多識の意氣いき相投あいとうじて、一夕いっせき歡談かんだんほしいままにすることが出来できるとは、まさえきを受け知能を啓發けいはつせらるゝこと、十年のあいだ、讀書に親しめる以上の價値かちがある。

けだし、無師獨悟むしどくごとて、ひとまなんで獨りさとるがごときは、おおむ偏頗へんがく見界けんかいに終始するものなるがゆえに、良友りょうゆうを得て、共に語り、腹藏ふくぞうなく意中いちゅう披瀝ひれきし合つて疑團ぎだん氷解ひょうかいするにまされるは無しと云へる意であろう。

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【語彙説明】

○無師獨悟(むしどくご)・・・特定の師匠や指導者を持たず、自分自身で物事を理解すること。

○見界(みさかい)・・・見境と同じ。物事の見分け。善悪などの判別。識別。

○疑團/疑団(ぎだん)・・・心の中にわだかまっている疑いの気持ち。

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【出典】

『醉古堂劍掃講話』「情之巻」 p.140~141
著作者:大村智玄 刊行所:京文社書店

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【原出典】

『酔古堂剣掃』(すいこどうけんそう)「情」(じょう)

中国・明朝末の陸紹珩(字:湘客)が古今の名言嘉句を抜粋し、収録編纂した編著。