江湖載酒とは

『下谷叢話』に「江湖載酒甘薄倖」の一文がある。

解説者の読み下し文では、「江湖こうこ酒ヲセテ薄倖はっこうあまンジ」としている。

「江湖」とはチャイナの揚子江ようすこう洞庭湖どうていこだろうと想像する。

しかし、『下谷叢話』の背景は、日本の関東周辺だ。

関西なら琵琶湖と淀川に模したものか、とも思うのだが、疑問である。

さて、この一文は、どう理解したら善いのか?

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【調べた語句】「江湖載酒」の意味

【結果1】奔放ほんぽう自在に浮世を遊泳、いずこに行こうと常に酒をとも。

〔参考書籍〕『中国詩文選18 杜牧』荒井健・著 筑摩書房 1974年1月25日 p.8

【結果2】游子ゆうしが酒を載せて四方に浪迹ろうせきすること。

〔参考書籍〕『神田喜一郎全集 第6巻』同朋舎出版 1958年4月30日 p.404

〔語彙説明〕

〇游子(ゆうし)・・・旅人や旅行者、故郷を離れて暮らす人。

〇浪迹(ろうせき)・・・さまよう。韜晦とうかいする。(自分の才能・地位などを隠し、くらますこと。また、姿を隠すこと。行くえをくらますこと。)

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これは、杜牧とぼく七言絶句しちごんぜっく遣懐いかい」(おもいをる)の一句が典拠にある。

【原文】落魄江湖載酒行

【読み下し文】江湖こうこ落魄らくはくして 酒をせて

【現代口語文】江南地方に遊び暮らし、酒樽さかだるを舟に載せて行ったものだ。

【語彙説明】

〇江湖・・・江は長江(揚子江)、湖は洞庭湖を指す。ここでは江南一帯の地方、とくに揚州を言っている。また、「江湖」といったとき、中央に対する地方、の意味も出てくる。

〇落魄・・・おちぶれるの意ではなく、遊びほうける、ということ。

【参照】『漢詩の楽しみ』 石川忠久・著 時事通信社 1982年12月28日

 

PDFで「遣懐」全文と解説は、こちら

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「江湖載酒甘薄倖」

解説者の読み下し文「江湖こうこ酒ヲセテ薄倖はっこうあまンジ」。

【出典】『下谷叢話』 永井荷風・著 岩波文庫 2000年9月14日発行 135頁 1行目と13行目

「泊秦淮」作・杜牧

題:泊秦淮  作:杜牧

煙籠寒水月籠沙

夜泊秦淮近酒家

商女不知亡國恨

隔江猶唱後庭花

 

題:秦淮に泊す

煙は寒水を籠め 月は沙を籠む

夜 秦淮に泊まりて酒家に近し

商女は知らず 亡国の恨み

江を隔てて猶お唱う 後庭花

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PDFで詳しく。「秦淮に泊す」 作:杜牧